ものがたり
浅野農園 -シシトトラ-
「ゆこう」は、上勝町の食文化そのもの
私を引き寄せた、上勝町の「ゆこう」
浅野秀美(あさの・ひでみ)さんは、徳島市の出身。
2021年、徳島県勝浦郡上勝町にある祖父母の畑を譲り受け、小さなサスティナブル農園としての歩みを始めました。
農園があるのは、杉林に囲まれた標高約400メートルの山あい。
浅野さんの父が生まれ育った土地でもあり、今は家こそ残っていないものの、先祖代々多品目を育て、手を入れ続けてきた畑です。
南天、もみじ、蓮、笹、梅、桃、椿、栗、柿。
そして、香酸柑橘のすだち、柚子、柚香(ゆこう)。
春には山菜が顔を出す、自然の息づかいが色濃く残る場所です。
現在は子育てをしながら農業に向き合い、週末には両親が作業を手伝うことも。
家族の記憶が折り重なるこの土地で、浅野さんは「いつかまた、人が集まる場所になったら」と、静かに未来を思い描きながら、畑を守り、整え、次へ渡す準備を続けています。
その中で、浅野さんの心を強く捉えたのが、上勝町の柚香でした。
「香り柚子、酸味すだち、味ゆこう」
上勝町に伝わるこの言葉どおり、ゆこうには、角の取れた酸味と、ふくよかな甘みが同居しています。
ところが現実には、ゆこうは“果実”としてほとんど流通しません。
だからこそ浅野さんは、「上勝のゆこうを、果実として味わう」ための道を選びました。
自然が生み出した、柚香(ゆこう)という魅惑の柑橘
「柚が香る」と書く柚香(ゆこう)。
柚子と橙(だいだい)の自然交配によって生まれ、徳島・高知の山間部で古くから育てられてきた、上勝町を代表するローカル柑橘です。
香酸柑橘でありながら、まろやかさと糖度の高さを併せ持つのが、ゆこうの大きな特徴。
上勝町では、徳島の郷土料理「かきまぜ(五目寿司)」のすし酢や、ぽん酢として、日々の食卓に寄り添ってきました。
一方で、ゆこうは一般市場では果実としてほとんど流通していません。
柚子が人気となり生産量が増えていくにつれ、柚香の生産量は減少していきました。さらに柚子の収穫の前に、青い時期に収穫され、搾汁用として扱われるようになったのです。
その結果、果実としての魅力が語られる機会は限られ、流通も広がらぬまま、知る人ぞ知る存在となり、いつしか「幻の果実」と称されるようになったのです。
浅野農園が大切にしているのは、ここから先の価値。
農園内に、ゆこうを完熟するまで待つ区画を設け、果実として楽しめる状態で収穫します。
農薬や消毒剤は使わず、見た目やサイズのばらつきも自然の個性として受け止める栽培方法です。
完熟したゆこうは、青い時期とは表情を変えます。
浅野農園の糖酸試験では、青い時期の糖度が約7度台であるのに対し、完熟したゆこうは糖度10.5度に。
酸はしっかりとありながら、香酸柑橘としては高い糖度を持ち、やわらかな甘みとコク、そして後味の清らかさへとつながっていきます。
ゆこうを、次世代へ「良の遺産」として残すために
浅野さんの挑戦は、単に「作る」ことにとどまりません。
上勝町のゆこうは、暮らしの中では身近な存在でありながら、流通の仕組みの中で果実としての価値が見えにくくなってきました。
だからこそ、浅野さんは、ゆこうを「搾って終わり」にしない。
完熟まで待って収穫し、果実として届ける。
形の揃わないものも無駄にせず、手をかけて加工へとつなげる。
その先にあるのは、上勝町という土地の味覚を、次の世代へ“きちんと残す”という意思です。
杉林に守られた「ぽつんと農園」で、野生動物と隣り合わせの環境を受け入れながら、畑を未来へと開いていく。
ゆこうは、上勝町の風土そのもの。
その香りと味わいには、季節の巡り、山の水、澄んだ空気、そして人の暮らしの記憶が重なっています。
ゆこうをきっかけに、上勝町を知る人が増え、農の営みが「続けられる仕事」として根づいていくこと。
その未来のために浅野さんは今日も「待つ」ことを選びます。
完熟という、もっともおいしい瞬間まで。
絶妙な甘酸っぱさを瓶に閉じ込めた、柚香のコンフィチュール
完熟した柚香(ゆこう)を、果実の香りごと瓶に閉じ込めた季節のコンフィチュール。
浅野農園で完熟まで育てたゆこうを贅沢に使用し、無添加・低糖度で仕上げています。
マーマレードのように皮を薄く刻み、柚香本来の味わいがしっかりと伝わる設計に。
香酸柑橘ならではの爽やかさの奥に、角の取れた酸味と、奥行きのある香りが広がります。
● ポイント1|完熟ゆこうならではの、まろやかさ
青い時期の搾汁とは異なり、甘みと酸味のバランスが穏やか。
● ポイント2|栽培期間中 農薬不使用・消毒剤不使用
自然のまま、丁寧に育てられた果実を使用しています。
● ポイント3|果皮までおいしい香酸柑橘
果皮が薄く果汁が豊富なゆこうは、皮の香りを活かすコンフィチュールと好相性。
トーストやヨーグルト、チーズに添えて。
上勝町の風土が育てた、やさしい柑橘の余韻をお楽しみください。





